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県立広島大学と連携して,避難行動調査研究事業(令和2年度)を実施しました。
平成30年7月豪雨災害を受け,「効果的な避難情報伝達システム」と「避難促進のための社会システム」の構築を図るため,平成31年度から2ヵ年度にわたり,県立広島大学防災社会システム・デザインプロジェクト研究センターと連携して,避難行動調査研究事業を実施しました。
平成31年度の調査研究事業では,実践的な防災・減災活動を展開できる成果として,10項目の政策提言を受け,令和2年度から各政策の実行にあたるとともに,自然災害が頻発・激甚化し,世界的に大流行しているCOVID‐19(新型コロナウイルス)感染症を踏まえた災害対応も迫られているなかで,令和2年度の調査研究事業では,民間企業・組織の支援協力を得た災害時における市民避難行動促進システムを構築するため,民間企業・組織とのコンソーシアム(共同事業体)設立・運営に向けての検討を行いました。
令和2年度 避難行動調査研究事業「災害時避難行動促進ネットワーク構築事業」 調査研究実施報告書 [PDFファイル/3.74MB]
1 実施期間
令和2年4月10日から令和3年3月31日まで
2 調査研究要旨
(1) 提言を受けた政策の内容とその進捗状況(令和2年度)
ア 10年,20年後を考えたサステナブル(持続可能)な防災・減災システム
発災前から発災後1週間までの市民の避難行動を促進支援し,災害時における市民の不安解消を図るため,「学」の知見を得て,「産官」によるコンソーシアム(共同事業体)を編成し,双方が連携して「避難促進のための社会システム」を構築することを目的とする本調査研究事業を実施しました。
イ 高齢者への情報伝達(ラジオ,その他媒体)のあり方
株式会社FMみはらでは,ラジオに親しんで頂くためのポスター作成等を行い,市内のショッピングセンターや病院等に掲出を依頼し,ポスターにはスタッフの顔写真等を入れ,身近に感じて頂ける仕組み作りを行いました。
三原テレビ放送株式会社では,放送画面を分かりやすく作ることに心がけ,避難情報が発令された際は,発令情報の内容,対象地域をはっきりと見えやすい文字で載せています。
ウ ローリングストックと民間(事業施設・事業者等)との協定
県「みんなで減災」備えるフェア等において,防災協力協定を締結する小売業4社が,市内店舗で非常時持出品・備蓄品の用意やローリングストックの実施を啓発し,このフェアにあわせて,株式会社FMみはらでは,各社の取り組みを 自主制作番組で放送し,災害に備える気運を高めました。
また,防災協力協定を締結または防災会議委員を任ずるライフライン関係機関と3回にわたる連絡会議を重ね,効果的な避難行動の促進に向けた方策を検討しました。
エ 地区防災計画(モデル地区)の策定
内閣府が実施する地区防災計画モデル地区事業を活用し,モデル地区に選出された中之町下町内会「防災会」において,同府が派遣するアドバイザーによる地区防災計画策定支援を実施しました。
オ FMラジオ放送のあり方と空振り対策
株式会社FMみはらでは,災害が発生した場合または発生するおそれがある場合において,災害対策本部等と連携して,空振りを恐れない情報発信を行い,「(空振りを恐れて)注意喚起をしない」ことを避けるよう努めています。
カ 災害情報ネットワークの活用
株式会社FMみはらでは,市内在住の防災士を災害情報ネットワークメンバーとして,災害時の情報提供を依頼し,新たに導入したLINEによる連絡網を用いて情報交換を行い,放送に活かしています。
このLINEグループには,三原テレビ放送株式会社も加わって情報を共有し,本年度は,メンバーから撮影,提供いただいた被害場所の様子を放送画面で使い,被害状況のお知らせや危険箇所の周知につなげています。
キ 避難所の様子をリアルタイムに伝達
株式会社FMみはらでは,前述の災害情報ネットワークメンバーから避難所の情報を頂き,自主開設の避難所(開所,閉所,避難者数)等の情報発信を行い,三原テレビ放送株式会社でも,同様に災害放送で伝えています。
ク 災害メールとHPの充実
登録制市民メール,市ホームページやFacebookを活用して,迅速かつ簡易な情報発信に努めるともに,新たに運用開始した市公式LINEアカウントも用いて,さらなる充実化を図っています。
三原テレビ放送株式会社や株式会社FMみはらでは、いずれもFacebookを活用した写真と文字による情報を発信し,三原テレビ放送株式会社のFacebookでは,水位上昇した河川の様子を河川カメラの映像(静止画)から掲載して身近に 迫る危険な状況を伝えています。
ケ 専門職による災害時ケアプラン
介護専門職と介護事業者に対して,避難行動要支援者避難支援に関するアンケート調査を実施して,この調査結果等から今後の方向性を探ることとしました。
コ 情報発信に定時性を持たせるシステム
三原テレビ放送株式会社では,気象警報が発表された後から1時間毎(毎00分)にアナウンサーが出演して最新情報を伝える取り組みを行い,番組の終わりには,「次は○時00分に最新情報をお伝えします」と締めくくる等,定時性を 持たせていることを知ってもらえるよう工夫しています。
株式会社FMみはらでは,生放送の番組時においては、常に発信すべき情報がないか確認を行いながら放送にあたるとともに,その他の時間帯は,臨時放送を随時行える体制を敷いています。
(2) 調査研究要旨
ア 事業推進会議の開催
県立広島大学と三原市のメンバーで構成し,県立広島大学防災社会システム・デザインプロジェクト研究センターから,大学院経営管理研究科 ビジネス・リーダーシップ専攻長 江戸克栄 教授をリーダーとして,計6回開催しました。
イ COVID‐19と避難意識に関する調査
平成30年7月豪雨後の防災意識に関して,避難におけるCOVID‐19の影響や災害直後と現在の防災意識比較等について,インターネット調査を実施しました。
ウ 防災における民間企業との関係強化に向けたインタビュー調査
災害が発生した場合または発生するおそれがある場合において,産官が連携して市民の不安を和らげ,円滑な避難行動を促進するために,この支援協力を得られることが 見込まれ,市内で活動する民間企業・組織を対象にインタビュー調査を実施しました。
エ 防災における三原市との連携推進に向けたアンケート調査
より効果的で効率的な防災・減災の取り組みとして,民間事業者と一層の連携推進を図り,事業者が保有するノウハウや経営資源について把握するとともに,それらをどう活用することができるのかを検討するため,市内に事業所を置く民間企業・組織を対象にアンケート調査を実施しました。
オ 避難行動要支援者避難支援に関するアンケート調査
避難行動要支援者避難支援に関して,在宅要介護者の計画を立てる専門職や高齢者入所施設・介護事業所を有する法人を対象に調査(アンケート及び聞き取り)を実施 しました。
カ 共働き世帯の子どもの安全に関する調査
共働き世帯の子どもの安全に関する意識と見守りサービスのニーズ把握するために県立広島大学防災社会システム・デザインプロジェクト研究センターが行ったインターネット調査の結果を活用しました。
キ 避難行動意思決定モデルの構築と実証研究
防災・減災分野で,消費者行動視点から避難行動意思決定モデルを構築するため,江戸教授らが行った情報伝達方法や内容(写真または文字)による避難意識の調査 結果を活用しました。
ク 災害時の避難行動促進支援に係るコンソーシアム設立準備会議の開催
コンソーシアムに参加することが見込まれる民間企業・組織から意見等を伺うために設立準備会議を計3回開催し,参加者からコンソーシアム参加の意向等を確認しました。
3 提言
(1) コンソーシアムの設立・運営
災害が発生した場合または発生するおそれがある場合において,民間企業・組織の支援協力を得た災害時の避難行動促進を図るために必要なコンソーシアムを設立し,官民連携による市民避難行動促進「三原スタイル」を確立させる。
コンソーシアムには,4つの部(分科)会を設置し,各部(分科)会でとりまとめた避難行動促進システムを実行に移す。
ア 避難情報・促進部(分科)会
構成団体業種等
放送事業者,道の駅,(総合)小売業者,旅館業者,製造業者,大学,保険業者
協議する内容
早めの情報発信と避難促進(気象警報の発表が見込まれる時から)
「新しい避難様式」のもとでの避難場所提供
非常持ち出し品・家庭内備蓄等の励行
イ 避難行動要支援者避難部(分科)会
構成団体業種等
老人福祉施設協議会,介護支援専門員連絡協議会,地域包括支援センター,
社会福祉協議会,防災ネットワーク,防災士ネットワーク,自主防災組織連絡協議会,
旅客自動車運送事業者,大学,保険業者
協議する内容
個別計画の策定支援
避難所等の運営改善検討
避難誘導・支援
ウ インフラ(ライフライン)部(分科)会
構成団体業種
送配電事業者,ガス事業者,水道事業者,電気通信事業者,放送事業者
協議する内容
防災・災害情報発信の一元化
業務時間外(夜間・休祝日等)の連絡体制確立
避難誘導・支援
エ 物流・物資調達
構成団体業種
倉庫業者,貨物自動車運送事業者,港湾運送事業者,船舶運航事業者,(総合)小売業者
協議する内容
緊急物資輸送拠点の確保
緊急物資の調達,配送
業務時間外(夜間・休祝日等)の連絡体制確立
避難誘導・支援
(2) 持続可能なコンソーシアムの運営に向けて
ア 民間企業が参画しやすい環境づくり
イ 参画意識を保つための活動機会の確保
ウ 参画企業の公平性担保と新規参画のためのルール作り
エ 一般市民や地域活動団体との連携・協働
オ 個々の防災活動・施策展開から社会システムとしての「三原スタイル」を めざして
4 今後に向けて
市民避難行動促進「三原スタイル」構築連携協議会の設立及び運営